「たかや、」

振り向くと、柔らかい笑顔で俺を見つめている。俺はこいつの笑顔が好きだ。
何でもできるような気がする。何でも乗り越えられるような気がする。それが、どんなことだろうとも。

「すきだ」

言うとこいつは必ず笑うから。こいつの笑顔が見られるなら、俺は何度でも囁こう。
お前が好きだと、愛していると。






 引き出しの中のものを全部出して、順番に段ボールに詰めていく。小学生の時の何かでとった賞状とか、小さくなった消しゴムとか。消しゴムはもちろんゴミ箱行きだが。 18年間世話になった部屋には、俺の生きてきた証がはっきりと刻まれている。ふと、ひらりと俺の手元に白い封筒が降りた。こんなもの、俺の持ち物にあっただろうか。覚えがない。中身を確認しようと開けてみる。正直に言うと、涙が止まらない。誰も見てないからよしとしてくれよ神様。

 写真だった。最初で最後の、俺の今までの人生で一番幸せだった時の。

 あいつの笑顔は俺の記憶とうって変らず、写真の中でやさしく残っている。隣の俺は目をそらしているけれど、それは少し照れくさかっただけだろう。 俺は泣きながら、笑う。笑えているのかは定かではないが、俺の心は穏やかだ。少しさびしさは残るけれど。

 あいつは今頃何しているだろうか。しっかりやれているだろうか。
俺はこれからもあいつを想いながら眠るだろう。たとえまた他に好きな人ができても、悪いがそれは変わることがないだろう。俺にとってあいつは俺だった。依存しすぎていたのかもしれない。それが俺とあいつが別れると決意した理由だったのかもしれない、今考えてみれば。


 涙を拭いてもう一度写真を見る。 もう一度言う、俺の心は穏やかだ。俺は、小さくかすれた声で呟いた。



       「またいつか、きっと。」