グラスの中のワインを傾ける。零れるか否かのギリギリまで保ってから、元に戻す。どのくらいの時が経ったのだろう。もう生きる希望をなくしたというのに、今だに僕はそれを受け止められないで、居る。
正チャンでさえ、様子見の連絡は一度きりだ。そこまで、爛れているとでも言うのだろうか。僕は、あのこがいないと、何も出来ないと、周りは言うのだろうか。いや、周りは関係ない。僕は、あのこが居なきゃ、何も出来ない。3日前に任務に出、本当は、昨日帰ってくる予定だった。でも、帰ってこない。僕がいくら待っても、あの子は帰ってこない。

一生帰ってこなかったら?

そんな、今の状況ではいくらだってあり得る可能性を、僕は信じたくなくて、ソファに顔をうずめている。手の震えが、止まらないんだ、この僕が、ミルフィオーレファミリーの頂点に立っている筈の、この僕が。、やっぱり、君が居なくちゃもう、僕は、…僕は。

外が騒がしい。顔を上げると正チャンのお付きの女2人が駆け込んできた。ノックくらいしてよ、っていう間髪も入れず女は言った。

「白蘭様、が…帰ってきました…!」

その瞬間、僕は駈け出して、女は僕に追いつこうと必死に走っている。後ろで、「医務室に先ほど収容されました!」と報告する声が聞こえて、ありがとう、と告げてスピードを上げた。ただの女が、僕に付いてこれるはずもない。

!!」

周りの人間が驚いて道を開ける。医務室に駆け込むと、ベッドが一室埋まっているようで、そこから、いつもの甘い香りがした気がしてシャッとカーテンを開けた。面倒を見ていた最中らしく看護していた看護婦はびっくりして声を上げた、すぐに僕と患者を隔てていたことに気づき自ら退いた。そこには、包帯に身を包まれて顔も右半分しか見えない、が、そこにいた。震える手を持ち上げてそっとを抱きしめる。消毒の匂いが鼻をついた。

「白蘭さん…?」
…!」
「白蘭さん、遅くなってすいませんでした」
「いいんだよそんなことは、…ああ、本当にだ」

痛くないように、でも先ほどよりも強く抱きしめると、「あたしはそんな簡単に死にませんよ」と笑った。点滴がついている腕を持ち上げて僕の頭をゆっくり撫でる。その動作の一つ一つが、待ち望んでいたそれであって、僕は、彼女が居ないと何もできない臆病者で、でも、彼女は生きていて、

「白蘭さん」
「…ん?」
「まだ、言ってくれてませんよ」
「…ああ。うん、そうだね。」




 おかえり。




(消失したと思われた)