ああ、そろそろ彼女がやってくる時間だろうか。まっすぐに伸びた秒針を見つめて笑う。午後9時。彼女が掃除にやってくる時間だ。案の定コンコンと扉をたたく音がして、ガーッと開く。箒にモップというなんとも昔ながらな掃除道具を持って彼女はやってくる。 「おはようございます白蘭様、お掃除に参りました。入ってもよろしいでしょうか」 「おはよーチャン。っていうか、そんな形式じみたの、やめてって言ってるのに」 「いえ、仕事ですので…」 「うーん、固いなぁチャンは相変わらず」 ふふっと笑みをこぼした後に、じゃあ掃除よろしくね、と告げてソファに座る。いつもは外に出て冷たい空気を肺いっぱいに吸ってくるのだけど、今日はそんな気分にもなれずにマシュマロの袋をびりりと開けた。いつもと違う行動をとった僕を不審に思ったのか彼女は尋ねる。 「どうかされたのですか?」 「んー?別に?外に出る気分じゃなかっただけ」 「左様でございますか」 苦笑を洩らして掃除を始める。そういえば、掃除してるところみるのって、初めてだ。じーっと見ていると、案外面白い。埃のたまっていそうなところを探って、掃き出してダストポストへふわり。その後モップ掛けを始めて、その動作がとても面白い。いつのまにか少なくなったマシュマロを口に含んでその姿を見つめる。すると彼女が気まずそうに振り返って、白蘭様、と呟いた。 「ん?なに?」 「…あの、非常に申し上げにくいのですが、そんなに見られていると、恥ずかしいというか…」 顔を赤くして恥ずかしいという彼女がかわいいと思って、手まねきをする。少し赤みが引いた頬を片手で押さえながら、返事をして近寄ってくる。僕はソファから立ち上がって彼女を見下ろす。 「あのさ、思ったんだけど」 「はい?」 「そのエプロン姿で掃除してるのを見てると、なんか新婚生活してるみたいじゃない?」 瞬間ボッという音が出そうなくらい顔が真っ赤になって、彼女は何も言えなくなってしまったらしく口をパクパクさせた。うーん…かわいい。今日は外に出なくて良かったな。いつもは見れない表情が、たった30分でこんなにお目にかかれた。 「それでね、チャンに選ばせてあげる」 「…っはい」 「僕の家政婦かお嫁さんか、どっちがいい?」 すると彼女は、恥ずかしげにうつむいて、「…じゃあ、お嫁さんで…」と呟いた。 (永久人生ゲーム) |