ベッドに横たわる私の視界の端では、健司が一生懸命に宿題と格闘している。教科書を手に取り問題集を見下ろしてシャーペンを握って、いかにも勉強してますムードだ。まあ、実際のところ勉強しているわけだけれども。 私と言えば既に勉強というものに飽きて、健司のベッドに体を預けている状態だ。ああ、極楽極楽。夏が近づいてきた所為か少し暑いけど、全開の窓から入ってくる風でそれは緩和される。その、そよそよと心地の良い風が、私をゆらゆらとした夢の世界へと誘う。 「あーちくしょっ、間違った、」 がしがしと頭を掻きながら眉間に皺をよせている健司。今は数学と乱闘中らしい。 そんな彼を視界に入れながら、私は本能に正直に、ゆっくりと眼を瞑った。 ふ、とまどろみから覚醒して、視界に広がる天井を見つめた。ああ、あのまま寝ちゃったんだっけ。そう思うと同時に、右側に感じる暖かさに気づき目をやると、さっきまで机に向かっていた健司が、私の隣で、私と同じ布団を掛けて眠っていた。どうりで硬いと思っていた枕は、健司の二の腕だ。こんなに綺麗な、女の子みたいな顔をしているのに、バスケの為に鍛えた身体は見事なほど筋肉がついている。頬に当たっている健司の身体から、心臓の動きが聞こえた。 (勉強、終わったのかな、)(いつのまに潜り込んできたんだろ) だらだらとそんなことを考えながら、寝がえりをうち体制を変え、ベッドが軋まないように肘をついた。両手のひらに顔を乗せて楽な態勢をとる。健司の、薄く開いた唇から洩れる寝息や、額にかかる細い前髪や、閉じられた瞼の縁を飾る長い睫毛とか、いつもまじまじと見ない健司の顔を観察してみる。ああ、綺麗な肌、すべすべだ。コンプレックスなんてなさそうな彼を、飽きもせずじっと見つめていた。 「そんな見んなよ」 穴が空いちまう、と、寝ていたはずの健司はそう言って瞼をふるふると開いた。その眼には少し驚いた私が映っている。 「起きてたの?」 「や、起きた、さっき。お前が寝返り打ったとき」 「大分前じゃん」 「まあまあ」 膨れんなよ、そう言って手を伸ばしてきて、私の後頭部をそっと掴む。ゆっくり引き寄せられるのに抵抗もせず、唇を塞がれた。相変わらず飽きっぱなしの窓からは風が吹いている。少し日が落ちた時間帯、オレンジ色の太陽の光が、電気のついていない部屋の中をそっと照らしている。 「んっ」 迷いもなく侵入してきた舌に少し驚いて、手を付いていた健司の肩を少し強く掴んだ。きゅっと瞑っていた目を更に厳重に瞑る。先ほどまで枕にしていたその腕はわたしの腰元を撫で、背中に回り、ぐっと健司の方に引き寄せられる。もう、全体重といっていいほどに彼に身体を預けている。身体も、心も。 ようやく離された唇は空気に触れたとたんひんやりとして、どれだけ長い間唇をくっつけあっていたか、なんてことを教えてくれた。目を開けると健司が穏やかに目を細めていて、私も釣られて微笑んだ。後頭部にあった手は私の髪を愛おしそうに撫でて。堪らず健司の肩口に顔をくっつけた。服からは健司の家の洗剤のいい香りがして、ほう、と静かにため息をついた。 「もう一眠りするか」 そう言って、私をまたさっきの二の腕の位置に移動させた。どうやらここがベストポジションらしい。 枕になっている腕を回して私の身体を優しく包んで、頭をもう一撫で。 「おやすみ」 (かみさまがわらった) 露子様に捧げます!遅くなりまして申し訳ありません…!そのうえご期待に添えられているかわかりませんが…!! リクエストありがとうございました! |