いい加減こっち見ろよ、馬鹿野郎。



「それでね、高木くんがそれ拾ってくれてね、落としたよ、って、ね!死ぬかと思った!」

どうでもいいんだよ、んなこと。そんなこと思っていても口には出さず「ほー」「へえー」などなど、投げやりだがしっかりと返事をしてやっている俺はかなり大人だ。と、思う。こんなやりとりも既に見慣れた光景、こいつの好きな奴の話を聞かされる、そんな関係。望んじゃいないのに。俺って、可哀想な奴。

「でもさ…好きな人、いるみたいなんだよねえ」

しかしこれは予想外。見慣れた光景から生まれた今日初めての問題発言。それに俺は馬鹿みたいに食らいつく。

「え、高木好きな奴いたの?誰?ていうかまじで?」
「なにいきなり… なんか、斉藤ちゃんのこと、好きらしいよー」

斉藤ちゃん… ちっさくて色白で最近彼氏と別れたらしいとかいう、あのかわいい斎藤ちゃんか。ほう、へえ。高木、そのまま斎藤ちゃんと幸せになってくれ。

「…う」

俺が高木と斎藤ちゃんの行く末を密かに天に拝んでいた時、俺の横でくぐもった声が聞こえた。びっくりして振り向くと、が膝に顔を埋めていた。肩を震わせて。  …まじかよ。

「おい、」
「馬鹿だなって、おもって、るんでしょ、っどうせ、失恋しましたよ、あたしはあっ」

その言葉を境に嗚咽はどんどん大きくなって、隠してるせいで顔は見えないけど、たぶんすごい量の涙が流れてるんだと思う。喜んだ俺が少し恥ずかしくて、目の前の女が痛々しくて、ぽんぽんと頭を撫でた。

「馬鹿だな、なんて思ってねーよ」
「う、そっ 思った、もっ…」
「思ってねえって。…思えるわけねえよ」

もう、限界だ。俺はの小さい頭をぎゅっと抱え込んだ。「ひっ」という息を吸い込んだのが聞こえる。

「俺の方が馬鹿だっつの、何回も何回も同じような話聞かされてさあ」
「…っう、」
「それも、好きな女にだぜ?お前よりよっぽど泣ける」
「………え、」

戸惑った風に顔を上げて、俺の顔を覗きこまれる。馬鹿、今見るなよ、すっげえ情けない顔してんだからさ。

「…うそ」
「嘘で言うか」
「…じゃあ、あたし、藤真にひどい、こと、」

言いながらまたぶわっと涙を浮かべて、顔をしかめる。俺はあせって、「あー、いいから!もう!」と言ってこいつの顔を俺の肩に埋めた。

「お前がまだ高木のこと忘れらんないならそれでもいい、っつかそれでいい」
「う、」
「でも、俺はずっとお前の高木の話聞いてやってたんだからさ」
「…っ」
「…だから、さ、俺にも、見返り、…くれよ」
「…え、」

俺はにキスをした。涙で濡れた唇は冷たくて、少ししょっぱい味がして、一生忘れらんねぇだろうなって思った。
 嫌われると、もう話してなんてくれないだろうと覚悟していたのに、唇を離したあとに見たこいつは、照れくさそうな笑顔だった。





(踊ろうよ、ワルツ)




倫さまに捧げます!遅くなって申し訳ありませんでした…!返品可能です!リクエストありがとうございました!