「わかったかよ」
「…正直な気持ち言っていい?」
「おー」

「ぜんっぜんわかんない」



あああぶちって音が聞こえてきた気がするよこんにちは今日はお日柄もよく!です!こんな寒い冬休みの中あたしの愛しい恋人獄寺くんは、数学がものっそい、泣きそうなくらい理解できないあたしのために教えてくれています。家に来てもらうのは教えてもらうくせに悪いので獄寺宅です。宿題を、意外と整頓されている獄寺の部屋のまた意外と綺麗なテーブルに広げてにらめっこしていたところで、わかったかと言う問に正直に答えたところ獄寺がブチギレました。



「てっめえいい加減にしやがれ 何回説明すれば気がすむんだよ あ″?」
「ごめんだって本当にわかんないんだよ ハウアーユー?」
「お前英語もボロックソだろーがタコ まじお前受験する気あんのかよ
「あるっちゃーあるんだけどさ、やっぱわかんねーもんはわかんねっつーか」



でははは、悪いね獄寺!と頭をかきながら詫びるとはーーっととんでもなく深いため息をついて前屈みだった身体をぐぐっと後ろに伸ばした。短く息を吐いたあとにポッケに手を突っ込んだと思ったら煙草を取り出してきて口にくわえて火をつけやがった。



「ちょっ獄寺やめてよ煙草!」
「ンだよ、もう慣れてんだろ?」
「慣れてるけど、福流煙は主流煙より害が大きいんだよ ってことでやめようか獄寺くん」
「お前なんでそんなことばっか詳しいんだよ…」



それを数学にも応用してくんねーかな、と言いながら素直に吸い始めたばっかりの煙草を灰皿に押し付けて言った。なんだかんだ文句言っててもこうしてあたしのお願いを聞いてくれる獄寺はすっごい優しい。ものっすごい優しい、そんでもって純粋だ。ちょっと眉間にしわが寄ることが多くてちょっと目つきが悪いだけで、悪いやつ、怖い人、みたいに思われてるけど、中身を除けばアラ不思議、まだ童貞のチェリーボーイ獄寺隼人くんのご登場だ。くふふふって笑うと「その笑い方やめろ」って言われた。嫌いな人を思い出すとかいって、かわいいなあ獄寺。



「つーかほら、どこがわかんねんだよ」
「ああうん、なんかもう全てが」
「全てって最初っから決めつけっからわかんねんだよ、もっかい言うからよく聞いとけよ」
「うん」
「だから、このy=ax+bの線がこれだろ?んで、こっちのこの線が二次方程式だ、ってことまではわかんだろ?」
「んー」
「よし。そんでここの交点が(4,6)だっつった上で、この二次方程式の式はなんだって聞いてんだ」
「んー…んー?うん」
「わかったのかわかってねーのかどっちだよそれは」
「んー多分わかった」
「お前これすらわかんねーつったらキレんぞ…」



ふう、と息を吐いてから、そんでまずはこっちのこいつを…って言いながらあたしのシャーペンを持ちながらすらすらと宿題に文字を書き込んでいく。さっき教えてくれた時よりも少し丁寧に細かく教えてくれてだんだん理解できてきた。ふむふむ左がxで右がyか…っていうかこんなことも知らなかったんだね自分!ちょっぴしやばいんじゃないか自分!(今更気づいたのかよって話だよね!)内心自分でツッコミをいれながら獄寺の説明を聞いてから、「じゃあ計算してみろ」って獄寺がシャーペンを渡してきて、んーーーーって唸りながら計算する。さすがに足し算引き算掛け算はできますからね!割り算は分数になると無理だけど!かっこわらい!



「これでどうだ!」
「おー 正解正解」
「やったー!」
「やっとわかってくれたオレがやったーだよ…ったく」



ありがとう獄寺キミは命の恩人だ!って嬉しさの余り身を乗り出して、テーブルを間に挟んだまま首に抱きつくと、「うおっ」といいつつも頭をポンポンと優しくたたいた。



「まじありがとーだいすきだいすき!」
「お、おー…(つーかむ、胸が当たってるんですけど)」
「獄寺まじサイコー!きゃっはははは」
「(きゃははは じゃねーよこのバカ女)(あーくそ)(背中に手を回そうとする獄寺くん)」
「よし!じゃあ次いくよ獄寺くん!GO!アクエリオーン」
「(ええええ)(行き場のない手)おー…」



離れて改めてみると獄寺の顔がちょっと赤らんでて、なした?て聞いたらなんでもねーよってポカンと一発かまされた。軽く痛い!地味に痛いよごくでら!ぐああああってやってると獄寺が「色気ねーな」って苦笑いしてから、「じゃあそれわかったらあと解けんだろ」って言ってプリントを指でトントンとつついた。「やってみる」って言ったら「わかんなかったら聞けよ」って言って、飲み物持ってくると言い残して部屋から出て行った。飲み物とか、なんて優しいんだ!ってにこにこ(実際してないけど心の中はにこにこ)しながら残りのページの問題を解きにかかる。数分やって気付いたけど、なんか…できてる…?すごくねー?あたしすごくねー?!て思いながらやったらスラスラスラスラ手紙書くみたいに解けてきて自分でびっくりした。(やればできるのねあたし!)(じゃあ最初っからやっとけって話だけどあえてスルーの方向で)
丁度全部解き終わったところでガチャっとドアが開いて、獄寺がおぼんにお茶の入ったコップを持ってきてくれた。



「おかえりー獄寺」
「できたかよ?」
「んー全部終わったー!」
「は?ウソだろ いくらなんでも早すぎ…」



言いながらあたしの隣に胡座をかいて、プリントを自分のところまで持ってくる。一つずつ答えを確認しながらぶつぶつ言ってて、数秒たったあとに「全部合ってる…」って驚愕の声を上げた。やったぜお母様あたしやりましたやり遂げました!(ていうか獄寺は数秒で全部計算しちゃったんですかすごいな)



「終わったー!」
「お前やればできるんだから最初っから勉強しとけよハゲ」
「ハゲじゃないけどね、それはあたしもさっき思った」
「他に終わってねーの何だよ?」
「理科と公民だけど持ってきてないし、今日はこれでいいや」
「ふーん」



ふあああっとあくびを殺しながら背伸びすると背骨がぼきぼき鳴った。ああきもちい。聞こえたのか獄寺が嫌な顔をした。



「なにそんなかおしてー」
「その音が気持ち悪ィ」
「何言ってんのしょっちゅう喧嘩してる奴が」
「他の奴のはいんだよ」
「なにそれ」



あははーって笑って獄寺のベッドにダイブすると後ろから「てめっ」て声が聞こえたけど気にせずに布団に潜り込む。はあああーあったけー布団ふわふわだな獄寺のくせに!あたしんちのよりふわふわもこもこじゃん獄寺のくせに生意気!クソ!て思いながらも笑ってたら布団が急に引っ張られてひっぺがされそうになったので負けじと自分から離れていかないように必死に布団を掴む。獄寺やめてよちょっと今ふわもこしてたんだから!



「てめーこれが誰のベッドだかわかってんのか!」
「わかってるよ君のでしょ獄寺くん!いいじゃん別にちょっと疲れたから休ましてよ!」
「別に布団に潜んなくてもいいだろどっか座っとけばいいだろ空気を読めタコスケ!」
「てめーあたしがいつタコスケという名前に改名しましたか!シバき回しますよ!」
「テメーはいいからとりあえず出ろよ泣かすぞコラ!!」
「やってみろ〜できるもんならやってみろ〜」
「芋虫みてーなことしてんじゃねーよ小学生かてめーは!あーークソッ」



布団を握ったまんまぐるぐる転がると布団があたしの体に巻きついてきてあっというまに芋虫みたいになって獄寺は手出しができなくなった。殴られても痛くないし!と思ってふっふーんみたいな顔してたら頭をボカッと殴られた。しまった、頭は出たまんまだ!(盲点だった!)



「ちょっいたっ獄寺なにすんのちょっと彼女に向かって!」
「そういうお前は彼氏の布団に潜って寝ようとしてんだけどな」
「いいじゃんケチ!」
「だからお前そろそろわかれよ!」
「何が!」



何か文句あんのか言えるもんならいってみやがれ!って獄寺をじーっとみているとだんだん獄寺の顔が赤くなってきてアレレー?ってなった。アレレー?てっきりなんか正論をぶちかまされてごめんなさいと言わざるを得ない状況になるのかと思ったら、アレレー?「どした?」っていったら、急にまじめな顔でこっちを見て「彼氏の布団に潜って、どういうことになるかわかってんのかって言ってんだよ」と言われた。いつのまにか顔の赤みは引いていて、ちょっと、怯んだ。久々に、っていうか、付き合い始めてから、初めてこんな顔、見た、かもしれないかも。「獄寺?」って小さい声で呼んだらさっき回った方向と逆方向に回されて布団がみるみる剥がれて行った。ちょっ、目が、目が回るんですけどね獄寺隼人くん!



「きっきもちわるいごくでら目がまわる目が」
「おお」
「うんおおじゃなくてね目がね」
「ちょっと、黙れ」



目をぐるぐるまわしている間に口が獄寺の口で塞がれて、息ができなくて苦しい。目をギュッとつぶって肩を押し返して、ごくでら、と呼ぼうと口を開くとその隙間から獄寺のし、舌が…!軽く触れるだけのキスしかしたことがなくて、ていうかこんなの初めてで、恥ずかしいやら苦しいやらあったかいやらで訳がわからなくなってきた。顔があつい、死ぬかも。死因は獄寺病。うん、なかなか悪くないかもなあ。なんかだんだん激しくなってきて水音があたしたちの間からひっきりなしに聞こえてきてすごい恥ずかしい。やめたい、けど、やめたくないような、気もしてきた。獄寺があたしの舌に自分の舌を絡ませてきて、獄寺のだ液が流れ込んできて苦しい。息ができない上に水分もでてくるのでそれを飲み込むのが大変だ。人のだ液なんか飲んだことない(こんな言い方もなんかいやだ)けど獄寺のは全然嫌な気しなくて自分で驚いた。あんまり抵抗ないなあ、ってそこらへんからだんだん息が上がってきて何も考えられなくなってきておかしい。獄寺についていくので精一杯だ。なんか変な声もでてくる。誰だこんな声だしてんのは、厭らしいな。って思ってたら自分だった。



「ん、む ぅ」
「…っは、」
「ご、…く、ちょ、…くるしっ」



優しく肩を押すと意外と簡単に獄寺は離れて行って拍子抜けだった。獄寺があたしの口端についたどっちのかもわからないだ液を親指で拭った。すごい恥ずかしくて顔があつくて赤いんだろうな、って思って、両手で顔をバッと隠すと獄寺の手でやんわりと手を解かれた。



「ごく」
「わり、でも、ずっと、我慢して、たから…」
「え」
「オレは、お前が好きだから、お前の嫌がる事なんてぜってーしたくねえ。…けど、オレはお前が好きだ」
「うん」
「だから、…その…」



ああ、わかってしまった。獄寺の言いたいことが。恥ずかしい、けど、ここまで獄寺に言わせるのもなんだかかわいそうになってきて、でも、そんな風に思ってくれていることが嬉しくて。獄寺の首にぎゅっと腕を回すとピクッて動いた。そんな怖がんないで、もっとすきって言ってよ獄寺。



「獄寺」
「ん」
「あたしたちさ 付き合ってどんくらいたったか覚えてる?」
「半年だろ」
「…そろそろ、いっか」



獄寺が動揺してるのが手に取るようにわかって、ちょっと笑えた。ぶっちゃけ、怖い、けど、初めてなら、絶対獄寺が良い。って、いつのまにか普通に、自然にそう思ってたような気がする。あたしだって、そういうの意識したことがなかったわけじゃないし。獄寺が優しく頭をなでる。目をつむる。視界が消えても怖くなかった。



「本当に、いいのかよ」
「いいよ 獄寺なら」
「…
「ん?」
「…優しく、するから」



愛しくて愛しくて仕方がないこの人を、あたしはもう手放せなくなっている。

(その手でその足で)