放課後の教室はなんだか寒い。そこに獄寺と二人っていうのに違和感を感じて手汗を掻いているあたし。
いつも一緒に居るツナは用事があるとかで先に帰って山本は部活。当の獄寺は上級生からお呼ばれされて北校舎まで出張っていたそうだ。(本人曰く 年上は敵 らしい)「テメーらの相手してた所為で十代目のお供ができなかっただろーが!!」と上級生をボコボコにしているところに今日日直の仕事をしていたあたしが通りかかってそりゃもうびっくり仰天。必死にぶんぶん振り回される腕を掴んで教室まで引っ張ってきてやっと安心。ぜえぜえ息が切れているあたしと違って獄寺はむっすーとした顔でそっぽを向いていた。



「あんたは 何をしてんの!」
「年上は皆敵だ」
「それは知ってる!だからってあそこまでしなくていいじゃん、あーもうびっくりした」



整ってきた息を大量に吐き出すと獄寺は大きい音をたてて近くにあった机に座った。それ他の人の机なんだけど。こいつがそんなこと気にするはずもなく相変わらずむすっとした顔をしているのであたしは呆れて、窓を開けて手すりにのしかかった。夕日がまぶしい。欠伸をすると、あたしのすぐ後ろで獄寺が、「だけどな」と言った。



「ん?」
「あいつらから仕掛けてきた。それを返り討ちにしたって、文句ねぇだろ」



ああ、きっと獄寺は、上級生は何もしてないと勘違いしていると思ったのだろうか。頭をがしがしと書いてため息をつく獄寺。あたしは獄寺の横顔を見つめて言った。



「知ってるよ、また絡まれたんでしょ?」
「髪の色も態度も気に喰わねーってよ。態度はどうあれ、髪は生まれ付きだっつーの」
「あはは、うん、でも綺麗な色だよね、あたしは憧れるけどなあ」



そういうと獄寺はびっくりした顔でこっちを見る。口が半開きになっててちょっと面白い。笑みを浮かべて獄寺を見ると、ちっちゃい声で、「そんなこと、初めて言われた」と呟いた。



「まじで?」
「まじ」
「じゃあ今までの人は見る目がなかったんじゃない?」



初めてってことが嬉しくて笑いながら言ったら、かもな、て獄寺もちょっと嬉しそうに笑う。その顔を見て、なぜかは知らないけど、本当になんだかわからないものが、あたしの中にある気がした。どうしてか獄寺を見ているのが無償に恥ずかしくなってまた窓に寄り掛かる。やっぱり、夕日が眩しい。無言の時間が居心地悪くて何か言おうと考えていたら、獄寺から話しかけてきてくれた。



「お前さ」
「なに?」
「すきなやついんの?」



どくん。全身に物凄いスピードで血が駆け巡る音がする。でもそれとは裏腹に手が冷たく感じる。これ以上は、だめだ。今まで信じていなかった第六感がそう告げて、それに応じるように口を開く。



「いないよ?ってことであたし帰るね!じゃ!」



獄寺の顔をまともに見ないで、足元に置いたスクールバックを鷲掴みにし、目を見開いた獄寺の横を通り過ぎる、はずだったのだけど。急に握られた手首が痛くて、すごい力で引っ張られていることに驚いて、獄寺を見る。獄寺は右利きのくせに、左も強いの?なんてくだらないことを考えていないと、頭がパンクしてしまいそうで。何も言葉が出なくて、掴まれたまま獄寺の真剣な目から、私は目が離せないで居る。



「ほんとにいねーの?」



掴まれている手首から獄寺の熱が伝わる。触れているその場所が、熱い。声が出なくて、小さくうなずくだけの私を見て、獄寺はゆっくり瞬きをした。私達の横を時間が通り過ぎていく。窓際から注がれる赤い光はもう眩しくもなく、気になりもしなくて、私は獄寺に釘付けになってしまっていた。すると急に獄寺が今まで以上の力であたしを引っ張って、当然の如くあたしは獄寺に飛び込む形になってしまって、離れなきゃと思った矢先に、獄寺は私の背中に腕を回していた。これはいわゆる、その、抱きしめる、というやつで。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。もう出てる?知るもんか。



「なあ」
「あっ、 え、あの」
「好きな奴いねーんならさ」
「ん?」
「オレのことすきになって」



そんなに強く抱きしめられたら、もとからグラグラきてたあたしなんてイチコロじゃないか、バカ獄寺。

(煙の背中)