煙を吐きながら思う。くだんねーな、って。煙が口端に少し染みた気がして眉を潜める。舌でちろっと舐めてみるとぼこぼこしてて、ああ、切れてる、と思った。別にどうってことないけど。ただ傷が一つ増えたな、ぐらいにしか思わなかったのだけど。

そいつは、まるで自分がその傷を負ったように顔を歪める。そして大丈夫?とオレに聞きながら鞄を漁りだす。取り出された手の中からは見慣れている絆創膏が握られていて少し驚く。はそんなオレを尻目に、オレの口端にできた切り傷にそれを貼って、「これでよし」と満足げに笑った。

「サンキュー」
「ちゃんとしとかなきゃダメだよ?傷を甘く見ないこと!」
「へいへい」
「よろしい」

じゃ、いこっか、と言ってオレに背を向けて歩き出す。やけに小さくて、頼りなさ気に見えて、そして強い存在感を感じる、そんな背中だった。何故かとても愛おしく感じて、に早歩きで歩み寄る。不思議そうな顔を浮かべるの無防備な小さな手を乱暴に握って引っ張り、歩きだした。行き成りのことでびっくりしたらしく声を上げたが、やがてぎゅっとオレの手を強く握った。微かな笑い声が聞こえて、振り返らずに話しかけた。

「なんだよ」
「別に?」
「笑ったろ」
「笑ってないよ」
「笑ったって」
「笑ってませんー」

くすくすと笑う声での表情が安易に想像できて、何故か、オレの顔も緩んだ。







(人形放浪劇)