この世の果ては何処だと思う?と、獄寺に聞いたことがある。一度だけ、本当に、一度だけ。獄寺と酒を酌み交わしていた時。獄寺は酔っているのか酔っていないのかわからない目をして、果てなんてあるわけねぇだろ、と言った。それだけ。そんな時の情景が、今になって思い出される。幸せだった、獄寺と一緒にお酒飲んでくだらない話して愛してるだのって呟いて、そんな、当たり前のことが、とてもとても、とても幸せだったのだ。



こつん、と、革靴の底がコンクリートに響く音がする。動かせない冷たい身体の代わりに、眼球を横に向け、その正体を確かめる。背後から光を受けて顔は見えないが、シルエットで分かる。今まで、いつも一緒に居たことの宝かもしれない。
獄寺がゆっくり近づいてくる。唖然としているようだ。あたしのこんな血だらけの姿なんて、誰が想像できただろうか。自分でさえ予想していなかった出来事を他人が知っているなんて、もしあったら絶対許さない。あたしの横で膝をついて、獄寺の顔がようやっと見えるようになった。掠れた声で、お前、何やってんだよ、とあたしに言った。はっきり発せない声を絞り出して、問いにこたえようと必死に口を動かす。腹筋が、使えない。

「なんかね しくじったっぽい」

漸く出た声は、自分で驚くほど情けないもので、泣きたくなった。最期の会話になるかもしれないのに、残せるのがこんな声?泣けるを通り越して笑える。

「しくじったじゃねえよ なにやってんだよ…!」
「片付いたと思ったら後ろからドン」
「…腹に穴あいてんじゃねぇかよ…」
「まじで?やば、恥ずか、し」
「…もういい、もう、喋んな」

そういって、あたしの身体をそっと、ゆっくり起こした。こんなときでも優しいなんて、どんだけだよあんたは。そういうとこが大好きなんだよ、ねえ獄寺。血と噴き出る汗で張り付いたあたしの髪の毛を顔からはがす。優しく額を撫でる獄寺の手を熱く感じて、自分の体が冷たくなっていることに気がついた。嗚呼、切ないなあ

「獄寺」
「喋んなって言ってんだろ!!もうすぐ救護隊もくる、十代目もくる、だからお前はもう何も心配は…」
「わかって、るくせに、さ」

獄寺はいっつもそう。見たくない真実から眼を逸らす。あんたの悪い癖だよ、獄寺。いっつも指摘してきたあたしが居なくなったら、獄寺はどうなるのかな。笑って暮らせるのかな、それとも、

「ねえ」
、」
「あたしが、居なくても、ちゃんと掃除するんだよ、ご飯も自分で作ってね、あたしの料理本、あんたに、あげる」

「それと、なるべく山本とは喧嘩しない、ように、ね  大好きなじゅうだいめが…困る、からさあ」

「あとね、…隼人」


     あたし生まれ変わっても、隼人の恋人がいいなあ


そういえば隼人は泣きそうに顔を歪めて、上等だ、と言った。


最期に聞いたのは、愛してるのひとこと。



(この世の限り)