冬の寒空の下、あたしはファミレスの出口のところで、ひたすら時が経つのを待っていた。 今日は浜ちゃんのバイトの日だ。バイトがある日は浜ちゃんは学校が終わったらすぐ帰っちゃって、クラスの違うあたしは全然会えない。 それが週に何回か、ならまだ大丈夫。我慢できる。けど、最近シフトを必要以上に入れたらしく、月火水金と、1週間のほとんどを埋めているのだ。しかも土日は野球部の練習の手伝いときたら、あたしが 浜ちゃんに会う時間が、極端に減ってしまった。それは、さすがに寂しいというか、なんというか。 だから今日は、友達の家に泊まる約束をして、浜ちゃんのバイトが終わるのを待っているのだ。そうすれば遅くになっても平気だし(友達にも言っておいた!)、お母さんからお咎めを受けることもない。 「寒いなあ…」 やっぱり、冬真っ盛りのこの時期に、もう2時間も外に立ちっぱなしとなると、ちょっと辛い。けど、もうちょっとで浜ちゃんが出てくるはず!(9時上がりって言ってた!多分!)ガンバ、あたし。 浜ちゃんに会えるんだ、と思ったら、そんな寒さとか、全部吹っ飛んじゃう。 カランカラン、と入口のドアが開く音がして何となく振り向くと、あたしが待ちに待った人だった。 「!?」 えっ何で!?と声を上げてこっちに駆けてくる浜ちゃんを見て、あたしは頬が緩んでしまう。浜ちゃんはあたしの前に立つと、「どうしたんだよ、」と心配そうにあたしを見た。 「最近会えないから、あたしから会いにきちゃった!」 そう言うと浜ちゃんは驚いた顔をしてから、眉を八の字にしてあたしの顔を両手で包みこんだ。あ、あったかい。 「こんな冷やして…どんくらい待ってた?」 「…2時間くらい?かな?」 「2時間!?」 大きい声を出してまた驚いた表情をする浜ちゃんは、そのあとちょっと怖い顔になった。 「何で、そんなことすんの」 がん、と面喰ってしまったあたしは、浜ちゃんに会いたくて待ってたのに、と思って涙がじわあっとあふれてきてしまった。ああ、何でだ。あたしの涙腺。そんなあたしを見て浜ちゃんはわたわたと慌てた様子で、「ああ、違う違う!」とあたしの涙を拭いながら、少し腰を折ってあたしの目線と合わせて、言った。 「ごめん、言い方悪かった。こんな冬の、しかも夜に!女の子一人で、しかも2時間もこんなとこにいたら危ない、って言ってんの!」 浜ちゃんの言葉に涙が引っ込んだあたしは、へぇ?みたいな、なんだか間抜けな声が出て、ちょっと恥ずかしい。そんなあたしを見た浜ちゃんは少し笑って、ポケットの中身をごそごそと漁り出した。そしてとり出したのは、一つの鍵。 「はい、コレ」 「何の鍵?チャリ?」 「ちーがーう!家の鍵!」 家の、鍵?え、うそ。 手に乗せられた鍵を見たあとに浜ちゃんを見上げると、少し照れているみたいで、あたしをは目を合わせないで言った。 「待ってるなら、家で待ってて。んで、うまい飯食わして」 浜ちゃんはあたしの手をひいて歩き出した。「どこ行くの?」と言ったら、「帰るの!おまえもう今日泊まり決定!」と返事をされて、ああ、友達にメール送っておかなきゃ、と思いながら、また頬を緩めるのだった。 (…こんなかわいいことされて、帰らせてたまるか!) (愛が聞こえる) |