友達とさよならを交わして一人家路につこうとした時、ふと甘いものが食べたくなってどうしようか迷う。コンビニへ行こうか、どうしようか。カラオケに行ったおかげで遊び疲れているしどうせなら早く帰って寝た方が良いのではないか。とも思ったのだけど、結局後から後悔することが目に見えてわかっていたので結局我が家ではなくコンビニへと足を向ける。7時から11時まで営業中の某所だ。プリンを買って家で食べようかチョコまんを買って歩きながら食べるかと試行錯誤しているときに後ろから思いもよらない人からお呼びがかかった。目が飛び出るかと思った。 「お、やっぱじゃん」 「高瀬、なしたのこんな時間に」 「いや、宿題やってたんだけど目が疲れたからさ、気晴らしにコンビニ行こうかなーと思って」 平静を装って近づいてくる高瀬に歩調を合わせてみる。上手く誤魔化せているか、体温が上昇したのを。暗いので大丈夫だとは思うけど。これがスウェットとか中学のときのジャージとかじゃなくてよかった。髪とかボサボサじゃなくてよかった。高瀬はジーパンにダウンというラフな格好だけど、そんな特別オシャレしているわけでもないけど、それがまたオシャレに見えてしまうのが不思議だ。エースマジック?冗談じゃない、エースの皆さんが皆こんなにかっこよかったら世界が嫉妬するっつーの。 「お前は?」 「あたしもコンビニ。友達とカラオケ言ってたんだけど、甘いもの食べたくなってさあ」 「太るぞー」 「うっさい!太るとか凹むからやめてよもー」 「うそうそ、お前は太ってない」 あはははと思う存分笑ってから、「行先一緒だろ?一緒に行こうぜ」と言って歩きだした。それについていきながら一人で胸を抑える。やばい、やばい。あたし、高瀬とコンビニ行くの?やばいって。高瀬が、「今日は久々に部活なくてさー」と話をするのに必死に返事をして相槌を打って、やっとのことでコンビニに到着した。急に明るくなった視界に目を凝らしながら扉に手をかけようとすると、高瀬がそれを止めて反対の手で扉を素早くあけた。あたしがびっくりした顔で高瀬を見ると、高瀬は「レディファースト」ってにかっと笑った。 「どうぞ?」 「ど、どうも」 「よし」 満足気な顔をして扉を閉める。は、恥ずかしい…!ていうか、高瀬、やっぱかっこいいな、今どき、レディファーストなんて言ってエスコートしてくれる男の人って、どのくらいいるんだろう。意外と沢山いるのかもしれない。けど高瀬はやっぱ、特別だなあって思ってふふっと笑った。高瀬が雑誌コーナーに向かったので、あたしもそれに付いていくと後ろで、「いらっしゃいませー」という声が聞こえた。その後に同じ声の人が、「え、準太?」と高瀬を呼んだ。高瀬はびっくりした顔をして振り返り、その人を見てもっとびっくりした顔をした。あたしも一緒に振り替えると、茶髪の背の高い男の人がこっちを見ていて、高瀬の顔を確認した後に、やっぱ準太じゃん!と近づいて来た。 「ひっさしぶりだなあ、準太!」 「恭平サン!ちわっす!」 ペコッと頭を下げて挨拶する高瀬を見ると、どうやら高瀬の先輩らしかった。でも見たことないから、多分卒業生だ。あたしもつられて軽く頭を下げるとそのキョウヘイサンはあたしを見て「こんちは!」と明るくあいさつしてくれた。やっぱり野球部って、引退してもこういう雰囲気みたいなのは残るのかなあ、と思った。 「恭平サン、ここでバイトしてんスか」 「そーそー!結構前からなー」 「知らなかったッス、つーか続いてんすね」 「テメー失礼なことを!」 カラカラと笑い合う二人を見て、楽しそうだなー、と、あたしもうっすら笑みを浮かべる。すると高瀬はハッと気づいた顔をして、あたしに「わり!わかんねーよな、」と言った。 「野球部の先輩だよ」 「よろしく、えっと、なにちゃん?」 「あ、です、よろしくお願いします」 「恭平でーす!よろしくねー」 あいさつを交わしていると、店員さんが恭平サンに、「レジお願いしまーす」と声を掛けた。「やっべ、じゃ、なるべくたくさん買い物よろしく!」と言ってレジに向かった。高瀬は嬉しそうに、「なっつかしーなあ」と言った。「1年生の時の先輩?」と問うと「そう、あの人、投手だったんだ」と言ってジャンプを手に取った。やっぱ高瀬もジャンプとか読むんだ、あたしも弟いるからたまに読むけど。 「すっげー球速くてさー、憧れだったんだよな」 笑みを浮かべてそう言う高瀬はどこか懐かしそうで、あたしはなるべく邪魔をしないようにと思って、「ちょっと見てくるね」と言ってお菓子コーナーに足を向けた。そっか、あの人は、高瀬のあこがれの先輩だったんだ。でも、一昨年って、確か…と思った後に、考えるのを止めた。そんなの、関係ないよね。憧れだった人に逢えた。それだけできっと高瀬は嬉しいはずだ。あたしはポッキーを手にとって高瀬の所に戻る。高瀬は漫画に没頭していて、あたしは手近にあったファッション雑誌を取ってパラパラと捲った。数分して雑誌にも飽きたので、高瀬に「買ってくるねー」と言って後ろを通り過ぎようとした時に、高瀬が「オレも行く」と言ってついて来た。 「読んでていいよ?」 「いい、もう終わった」 そう言う高瀬の横顔がかっこよくて、ていうかもう全てがかっこいい。はあ、と溜息をついてレジに並ぶと、さっきの恭平サンがレジの人だった。 「アリガトウゴザイマース。150円になります」 そういってピッとバーコードを読み取って袋に入れるのを視界の端に移しながら財布の中身をちゃりちゃりと漁る。150円、ちょっきりあった!と思って出そうとすると横からにゅっと手が伸びてきて、あたしより先にお金を置いた。 「ちょっ、なに?」 「奢ってやるよ」 「いいって!あたしのなんだから!」 「いーからお前は黙って奢られてろ!」 レディファーストだって、と言いながらにっと笑う高瀬を見て、何も言い返せなくなってしまった。恭平サンはそんなあたしたちを見てはは、と笑って「150円ちょうどお預かりいたします」って、出てきたレシートと袋に入ったポッキーをあたしに手渡した。 「ラッキーだったね、準太がおごってくれて」 「はい、頼んでないんですけどね」 「いいだろ?150円使わなくて済んだんだから」 「そうだけど…」 何か、やっぱ悪いよなあ、と思っていると、恭平サンはにやにやと笑って、「ていうか準太はいつのまにこんなにかわいー彼女ができたわけ?」と言った。はぁあああぁぁ!?高瀬を慌てて見ると、「かわいー彼女だってさ、よかったじゃん」と笑った。否定しようとしたのにそんなにいい笑顔で言われたら、収拾がつかなくなってしまう。恭平サンは「若いっていいねー」と言いながらため息をついた。 「恭平サンだってまだまだいけるっすよ」 「お前、高校生と大学生を一緒にすんなよ?もう俺らなんて女子高生から見たらオッサンだオッサン」 「あはは!…つーことでオレら行きます」 「おー!今度部に顔だしすっからよ」 「待ってます!ありがとうございました」 一礼してからあたしの手首を掴んで、行こ、と引っ張る。急いで恭平サンに挨拶をすると、手を振りながら「熱いねえ」とからかわれた。さっさと扉を開けて外に出る高瀬に引っ張られながら「高瀬!」と呼んだ。 「なに?」 「なにじゃない!さっき、何で否定しなかったのよ!」 「なにが?」 「なにが、って…あたしと高瀬が、付き合ってるって」 言いながら恥ずかしくなって歩く足元を見ていると急に高瀬が振り向く。いきなりのことに反応できるはずなくてあたしはちょうど高瀬に正面衝突してしまうことになった。高瀬の胸に押し付けてしまった顔を離して「ごめん!」と言おうと顔を上げようとする。すると高瀬はあたしの顔を自分の胸元に思いっきり押しつけた。いたっ、はなが、つぶれるっていうかその前に高瀬あんたちょっと! 「ちょっ、高瀬、はな、」 「離してはむり」 「っなんで」 「俺らさあ、本当に付き合ったら、きっと楽しいと思うよ?」 毎日がさ、そういって笑う高瀬は、あたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。あたしは信じられなくて、何も言わずに背中に手を回すと、高瀬は声を出して笑って、あたしの背中を抱きしめた。 (心臓が始まるとき) |