冬休みの日曜日。部活もなくて宿題もそこそこ終わったところで、彼女のと映画を見る準備を進めている。は俺の家に来る途中で借りてきたDVDをぶら下げて、おじゃましまーす、と俺の部屋に足を踏み入れた。

「準太の部屋入るの、3回目だ!」
「あー、1回目が付き合い始めの頃で、2回目が初めての」
「あーあーあーあー!うるさいうるさい!そういう話しない!」

俺が言おうとしたことを察して顔を真っ赤にするがツボに入って、笑いが止まらなくなった。ひーひー言いながら自然に出てくる涙を指先で拭っていると、むすーっとした顔で、「そんな笑うことないじゃんかー」と言いながらDVDデッキの電源を入れていた。

「ごーめんって、があんまり可愛いからつい」
「ほめてもダメ!バカ準太」
「あっ言ったなー?」

俺はニヤリと笑っての脇腹をこしょばす。はきゃあだかぎゃあだかぐわあだかよくわかんない悲鳴をあげて「やめてー」と笑っている。やり返してくるの手を懸命に避けていると、テレビから音楽が流れて少し驚いた。目をやるとDVDのスタートメニューが画面に映っていて、が「ほら、始まるから手どけて!」といって俺の手から逃れた。

「『ただ、君をあいしてる』?お前これ借りたの?」
「え、もしや見たことあった?」
「いや、ないけど」

恋愛モノを借りてきそうだなとは思ったけど、こう露骨ななんつーか…ほらそういう雰囲気になると…なあ?もんもんしているとが勝手にリモコンで再生を押して、俺の心配を余所に映画はスタートしてしまった。あー…まあいっか。と思っていたらがベッドの上に這い上がってきて焦った。そりゃもうある程度すごい具合に。

「ちょ…お前こっちで見んの?」
「ん、だめ?」
「いや、だめっつーか…(だめじゃないけどホラお前そんなベッドの上とかに乗ったらあれだろ、アレじゃんお前)」
「何、いいならここうちの場所ね!よーし再生再生!」
「あ」



※ただ、君を愛してる 上映会開始※

《10分経過》

「(すでに見入っている)」
「(なんでこいつこんな真剣に見てんのっていうかわざわざ部屋を暗くする意味がわからない)」



《30分経過》

「なにこの女!邪魔!静流の恋の邪魔すんなばか!」
「いやいや別にみゆきが悪いわけじゃないだろ」
「悪いよ!なんていうかもう存在が悪い」
「(演じてる加藤○○○に謝りたくなってきた)」



《1時間経過》

「同棲とかさ…なんか…アレだよな」
「なにアレって!やーだー準太のスケベー」
「スケベってなんだよ!男なら誰だって思うだろ!」
「んーまあ確かにつきあってもいない女と同棲はさすがにねえ」
「(…)オ、オレは、お前となら別に…同棲してもい」
「あっちょっ しー!玉木さん何言ってるか聞こえない!」
「…」



《1時間30分経過》

「かわいー!!メガネ外したら超かわいー!!萌えー」
「(萌えって)メガネ外した瞬間に男の態度急変したな」
「男なんてそんなもんでしょ」
「なにその どうせ男は… みたいな発言」
「どーせ世の中顔でしょー 世界は腐ってるーでも宮崎あ○○かわいいなー超かわいい彼女にしたい」
「お前女だから 無理だから  その前に俺の彼女だろお前」
「えー?そうだっけ」
「!(ガーン)」
「あっはーうそうそ、だいすきだよー準太」
「……!(そっと近づく)」
「えっ!!待ってちょっと静流いなくなっちゃった!!え!?」
「…」



《とうとうクライマックス》

  『一生に一度のキス、一生に一度の恋』

「……ぐすっ…………ぐすっ…………」
「(えっ泣いてる?うっそ)」
「…ぅ…ひくっ、っ……」
「(うわあ目ぇ真赤だ!)(すっげ抱きしめてえええ!!!)」←うずうずしている準太くん


  『ねぇ誠人…あのキスのとき、少しは、愛はあったかな…?』

「っ…………っぐす…」

「…」
「ぅ…準太ぁ…ひくっ」
「っ! どした?」
「手ぇつないでて…」
「(!!!!!!!) お、お、おおおおう、大丈夫か?」←お前が大丈夫か?な準太くん
「うぅ…」
「(うわあやばいこれなにこれやばいこれ)」


  『少しどころじゃなかったから』

「…ぐすっ…ひっ…ぅ……」
「………………………………」←最終的に見入ってしまっている準太くん(やっぱり高校球児ですね!)



  たーだーきーみをーーあーいーしーてるうーーー (鑑賞会終了ですお疲れ様でした!)



「いい話だったね…!」
「、そうだな…ってまだ泣いてんのかよお前」
「なんか止まんないんだけど涙…」
「あー、ほら、なきやめなきやめー」

見終わってエンドロールが流れているところでやっとが喋り出して、俺はハッと我に返った。俺、今ふつーに泣きそうになったんだけど、やばいな俺!危ねえ! って思いながら、泣き続けるの頭を撫でる。はごしごしと片方の服の裾で涙を拭いながら、ずっと繋ぎっぱなしだった手をぎゅっと強く握った。

「なんかさ…ほんわかするけど悲しいお話だったね…」
「な、まさかこういう終わりだとは思ってなかった」
「こんなさあ、お互い好き合ってたのに結局…っていうのが一番悲しい……・」
「お前泣きすぎだから」

笑って言ったら、「最近涙もろいんだよー」と言いながら目から手を放す。どうやら涙は止まったらしい。はああ、と息を吐いたと思ったら、俺の方に身体を倒してきて、肩に頭をこつんと乗せた。平静を装いながら「今日は積極的だな」って言ったら、「そういう気分なの」って小さい声で言った。ぶっちゃけ内心どきどきですから。

「はー…疲れた…」
「泣き疲れ?」
「そうかも」
「俺もちょっと疲れた…」
「ねー…」
「なー…」
「…」
「…」

くっついた状態で沈黙が続いて、何を話そうか考えていると、先にが、「ねえ」って話しかけてきた。

「もしさ、あたしが死んじゃったらどうする?」
「不吉なこと言うなよお前…」
「普通に死んじゃうんじゃなくて、知らない間にとかさ、準太ならどうする?」
「んー…とりあえず泣く」
「まじで」
「結構泣くと思うよ俺」
「やったー」
「やったーじゃねえよ ってか、そういう話すんなよな」
「なんで?」

「泣きそうになるから」って言ったら、がびっくりした様に「ほんとに?」って問いかけてくる。すぐ目の横に見えるの頭にこつんって同じように自分の頭をぶつけて、「ほんと」ってつぶやく。そしたらいきなりが抱きついてくるから、びっくりした。

「あたしも、準太が死んだら絶対泣く、すっごい泣く、湖できるくらい」
「…大袈裟だろ」
「真面目に!絶対できるよ、湖」
「じゃあ俺海」
「えー?広すぎ」
「そんでその海渡って、お前に会いに行く」
「天国まで?」
「そう、天国まで」
「準太も死んじゃうかもよ」
「いいよ、別にそれでも」
「だめでしょ」
「いいんだって、」

ただ、を愛してるから。そう言ったらは、「ばーか」って言いながら恥ずかしそうに笑った。







(映画鑑賞会〜準太編〜)