20:17 一人住まいのアパートにて


風呂上がりで暑いから、スウェットの下だけ着て濡れた頭をごしごしとタオルで拭いていると、ソファの上でちかちかと点滅するケータイが目に入った。タオルを首にかけて手に取ると、見慣れた名前が浮かび上がっていて、メールの受信ボックスを開いてみる。



件名:じゅーんたー
本文:今どこにいる?

件名:なに
本文:普通に家だけど・どうした?

件名:あー
本文:こないだのハチクロみた?
    自分的にはキャスト間違ってると思う 笑

件名:いー
本文:ちらっと見たけど微妙だな!
    から借りた漫画のほうが面白い

件名:うー
本文:だよねえ!
    野宮さんめっちゃかっこいい↑



ちょっとむかっときた。野宮?誰だよいや知ってるけど誰だよ野宮 かっこいーってよ よかったな野宮しばくぞ



件名:
本文:野宮ってあのロン毛?
    別にフツー

件名:RE
本文:ロン毛ってほどのロン毛でもなくない?笑
    かっこいいって絶対!
    真山も森田さんもかっこいいしさあ

件名:RE:RE
本文:あそこまでいったらもうロン毛
    じゃあかっこいいんじゃね?
    俺は山田さんがすき



ちょっと仕返ししてやろうと思って、ふと思いついた山田さんっていうキャラを挙げた。なんだよこれ、俺らしくもない。送ってしまったメールを見返してついつい恥ずかしくなって濡れてる頭をがりがり欠いた。風呂で火照っていた身体はいつのまにか冷めて、皮膚が乾いている。



23:49 変わらず一人住まいの


     アパートにて     


山田さんがすきというメールを送った瞬間返事が来なくなった。なんだよ、お前が悪いんだろ。いきなり男の名前だした上に野宮がかっこいいとか仮にも彼氏に向かって言うなんて、俺じゃなくてほかの男でも誰だって、嫉妬、嫉妬ぐらい、する。たとえマンガのキャラだとしても。
テレビを見る気にもならなくて、ソファにねころがってぼーっと天井を見上げる。あー、白いなあ… そういえばあいつの肌もこんな色してたっけなあ… と、そこまで考えてひとりでツッコミを入れた。こんなに人の肌が白いわけねえだろ、ばかだろ俺。もう病んでるかも、俺…

でかいため息をついたと同時に、またちかちかとテーブルの上で携帯のランプが踊っているのに気がついた。億劫に思いつつも手に取ってみると意外にもで、携帯を開いて飛び起きた。ていうか何でメールだよ。電話しろよ。



件名:
本文:じゅんたー



いやなんだよ。まじでなんだよ。このメールの意図が読めねーよ。名前を呼ばれただけで何を話したいとかいうわけでもなく、ただ、「じゅんたー」というメールに俺はすごく動揺している。どう返していいかわからずにしばらくうーんうーんと唸っていると、また着信が鳴った。電話だ。…だ!?

「もしもし!」
『もしもーし!準太?』
「なに、あのメール」
『んー…なんとなくっていうか…うーん…』

そう言うとはもごもご言ってから黙ってしまった。ちょっと強く言いすぎたかも、と思い、ごめんって言おうと口を開くと、電話口から小さく、ほんとに小さくだけど、車の音がした。

「お前、今どこにいんの?」
『んー?何で?』
「今、車の音がしたんだけど」
『え?まっさかー!』
「まっさかーじゃなくって、お前マジで今どこ?外だったらこんな時間にあぶねーだろ」
『うーん…』
「おい、聞いてる?」

問いかけたら、ぶちっと電話が切れた。えっ、嘘。呆然としながら耳にあてた携帯から鳴り響く、ツーツーという無情な機械音に耳を澄ませる。するといきなりインターホンが部屋に響いて、反射的に扉を振り返る。まさか、と思いつつも希望を捨てきれずに、鍵をかけた扉に駆け寄って勢いよく扉を開いた。




0:00 アパートの玄関にて


「ハッピーバースデー!!」


目の前にいたのは、希望通りの俺の彼女で、思わず肩の力が抜けた。

「焦ったよー、いきなりお前どこにいんのとかさあ!エスパーかっての!…あら、準太?」

から視線を落とし、自分の裸足を見つめる。裸足の手前には見慣れたブーツが見えて、ため息が漏れた。

「こっちが焦るっつーの…いきなりメールシカトだし電話はいきなり切るし…」
「ごめん…っていうか、聞いてた!?」
「?何が」
「ハッピーバースデー!」

「もしかして忘れてた?」って笑う彼女を見て、あ、となんとも間抜けな声が出る。図星だった。放心している俺を見上げながらは、「あたしが一番祝ったの早かったでしょ?」と笑った。

「1番にお祝いするのは絶対にあたしだって気合入れてたんだよ!」

「21歳おめでとう、準太!」と言って、ガサガサと紙袋から黒いマフラーを取り出して、俺の冷えた首に掛けた。その時、だめだ、と思った。もうだめだ。

「マフラーなんか買ってみちゃったりー…って、 う、  わ っ」

の肩を思いっきりこっち側にひっぱって引き寄せる。コートがすごく冷たくなっていて、こんな寒くなるまで、俺のために、と思うと、いろいろなものがこみ上げてきた。抱き締めたままドアを閉めると、冷たい空気が入ってこなくなった。後ろで鳴りっぱなしのテレビがうるさい。俺の肩に手のひらをあてて押し返してくるを強い力で抑え込むと、観念したのか、すぐに静かになった。

「ありがとう、すげーうれしい」

そう言ってもっともっと強く抱き締めると、は、どういたしましてって言ったあとに、苦しいって優しく笑った。

「今日、泊ってけよ」
「え!」
「いーじゃん、明日、っつーか今日?俺活動開始は午後からだもん」
「あたし着替えも持ってきてないし10時からなんだけど…っていうか、準」
「聞ーかーない」

冷たくなった頬にちゅ、とキスを落として「今日は俺のために一緒に寝てよ」と言うと、耳が真っ赤になったのが見えて、思わず笑ってしまった。



寝ぼける頭でオレンジ色の空を見ながら、と手をつないで朝飯を買いに行くのは、なんだか不思議な気分だった。











ゆーき主催の準誕企画へ捧げます…!タイトル丸無視でごめんなさい…!(日本語がまとまらず没にしてしまったのでした)