冬に成りかけのこの時期は、慣れて無いせいかやはり肌寒い。オレが漕ぐ自転車にまたがっているに大丈夫かと聞くと、「ぜんぜんへいき!」と元気な声が帰ってきてホッとした。風邪なんか引かれたら困る。 久々の休みが出来たのを知ったのは、ほんの昨日のことだったのに、は嫌な顔一つせずオレに付き合ってくれる。優しい女のこ。オレの、彼女。大丈夫とは言ったもののやはり寒いらしく、先ほどよりも強くオレの腰にしがみ付いてオレの背中に隠れている。そりゃあ、寒いよなぁ、お前制服だしな。着替えてからの方が、よかったかもしれない。とオレは少し後悔しつつ彼女に話しかける。 「なー」 「え?」 「やっぱ寒いだろ」 「別にー?」 「嘘。手ぇ震えてる」 「げ、まじで?」 「これ、使ってろ」 自分の首に巻いてあった黒いマフラーを解いて後ろに居るに手渡そうとする。だが彼女は「いいよ!準太の方が寒いって絶対!」と言って受け取ろうとしないので、「これ以上片手漕ぎだったら事故るわ、お前のせいだかんな」と脅す。するとはしぶしぶオレの手からマフラーを受け取った。腰に巻きついていた温かい腕が離れる。重心が少しずれて、彼女が自分のマフラーを巻いているのだと悟る。すぐにオレの腰にはぬくもりが戻ってきて、少し安心した。オレの背中に、の頬が触れる。 「やっぱり、準太の匂いがする」 声は振動として背中から中枢神経へと伝わり、オレの脳をダイレクトに刺激する。掠れたような、いつもと違う声のせいなのか、オレの心臓はうるさくなる。自分でも判っていて、それがまた何とも恥ずかしい。彼女が「準太、心臓すごいよ」と言ってくるのでまた更に顔が熱くなったのを感じながら、「漕いでるから疲れてんだよ」と誤魔化した。くすくすと笑う声がする。…絶対気づいてるなこいつ… 「準太」 「んあ?」 「ありがとね、誘ってくれて」 久々の休みなのにさ、と言ってぎゅっとオレの腰を抱きしめる。「嬉しかったよ」そう言ってくれてオレの方が嬉しいっつの。 「」 「なに?」 「また来ような」 彼女は笑って、まだ着いても居ないよ。そう言って笑った。 オレ達は今果てのない輝きを目指している。 (自転車逃避行) |