腕の中にあったはずのぬくもりが消えて、オレは目が覚めた。するとさらさらと頬を掠める風を感じて視線を泳がせると、上半身だけ起こして窓の外を眺めているを見つけた。オレの部屋は、ベッドの横にすぐ窓がついているから冬は寒いと言えば寒いんだけど、こうやって外を眺めるには都合がいい部屋構造だ。黒いカーディガンを羽織った彼女は寝る前に一緒に聞いていた曲を口ずさんでいた。やさしい声で、子守唄を聞いてるみたいだ。ただ、歌詞が切ないから、何故だか俺もせつなくなるのだけど。 「 思い出せるのは もうなんとなくだけど 君のこと 」 君、というのが俺だったら…って、ただ彼女が口ずさんでいるだけなのに、寝ぼけた頭ではそう考えてしまう。あるいは、彼女のこの声がそうさせるのかもしれない。 「 一億分の 君に会えた 奇跡なんかも いつのまにか 忘れちゃうかな 」 どくん、って心臓が踊る。 「忘れる」 っていう言葉に、俺はなぜかいつも過敏に反応してしまうのだ。それは恐いからなのか、疎ましいからなのか、定かではないけど。彼女の横顔を、バレないようにちらりと見ると、目をつむって風に当たって、気持ち良さそうに歌っていて、自然と笑みがこぼれた。心臓の音は、鳴りやまない。 「 君の 消えた ぬくもりを探すよ 」 まだ聞いていたかったのに、反射的に起き上がって、少し冷えたの身体を背後から抱き締めた。頬にあたる髪からは、自分と同じシャンプーの匂いがする。 「なっ…なに、」 いきなりのことで驚いた様子で振り返ろうとするから、もっと強く力を込める。おとなしくなったは、自分に回されている俺の腕にそっと手を添えた。 「どうしたのいきなり」 「いや、消えたぬくもりを与えてあげようと思って」 「うわ、しかも聞いてたんだ」 恥ずかしいなあ、といって微笑するの頬に小さくキスをすると、くすぐったそうに身を捩る。それが面白くて、「うりゃ」って言いながらもっとキスをするとは「なにやってんのっ」ておかしそうに笑った。 「声」 「ん?」 「の声がさ、すごい綺麗でびっくりした」 「えー」 「なに、えーって」 「えー」 「もっかいキスするよ」 「やだー」 「やだーって、傷つくなぁ俺」 ふふっ、て静かに笑ったの肩に顎を乗せて、「文貴くん泣いちゃうよ」って言ったら、「はいはいごめんね、あいしてるよー」って言いながら俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。 「おれもあいしてるー」 「しってるー」 「えー」 「…えー?」 「うん、あいしてる」 そう言ってきゅうっと力を強めると、も「うん」と言って首を横に倒して、俺の頭にこつんと自分のそれを優しくぶつけた。 「あたし、いつか文貴のこと忘れちゃうのかなあ」 「少なくとも俺は忘れないけど」 「そう?」 「うん、そう」 「じゃあ、もし忘れちゃったら?」 「もしなんてないよ、絶対忘れないし、絶対忘れさせない」 「…どうやって?」 ちらりと眼だけ動かして俺を見るの頬に、もう一度キスをした。 「死ぬまでずっと一緒にいれば、忘れることはないでしょ?」 (震える髪) 某映画の挿入歌をちょっとばっかり借りました |