「これ、やるよ」

そう言ってあたしの掌に落とされたのは、小さいピアスだった。

「えっ、これ、洋平がつけてるやつ、じゃないの?」
「そうだけど?」

満足げに見せた右耳には、これと同じものが光ってる。

「おそろい、ってやつ」
「でもあたし、耳開けてないよ」
「だから俺が今開けてやんだよ」

と、言いながらピアッサーを取り出す洋平はなんだか嬉しそうだった。けど、耳を開ける=限りなく痛いことだとあたしは勝手に認識しているから、どうしよう、と思ったけど、にこにこと笑っている洋平を見たら、「いいよ」と言ってしまうのだ。これは洋平が持つマジックだと思う。ずるい。

 でもいざとなるとやっぱり恐怖は拭えないもので。「いくぞー」と言う洋平に「ちょ、ちょっと待って!」と静止の声をかけるをかける。これで何回目だろう…

「大丈夫だって、そんな痛くねーから!ちゃんと氷で冷やしただろ?」
「でっでもっ いっ痛そうだもん!すごい!」
「俺上手いから痛くねーって、マジで」
「わ、わかんないじゃん痛くなるかもしれないじゃん!」
「(かわいいなー)」

びーびーとうるさいあたしを、洋平は笑った。ぶすーと不機嫌な顔をすると、とうとう声を出して笑いながらあたしの頭を撫でた。(やめてよどきっとするから!)

「じゃあ、、目瞑ってろよ。やる時は言うから」
「うっ、ほんとに不意打ちとかしない!?」
「しないしない」

くくっ、と笑いがら洋平は頷いた。だからあたしは洋平を信じて、ぐっと手を握り締めて目を瞑った。すると冷えた耳に洋平の指が触れたのがなんとなくわかって、ぎゅっと目をさらに強く瞑る。

「いくぞー」

 よしこい!どんとこい!と身構えた。すると唇にちゅ、と押しあてられて(多分、洋平の唇だ)思わずふっと力を抜いてしまうと、ばちんっ!と耳元で衝撃が走った。

「よ…っ、」
「ほーら、痛くなかっただろ?」

目を開けるとにこっと笑う洋平がすごく近くにいて、またびっくりしているともう一度、キスされた。さっきよりも、少し深く。

「んんっ」
「ん…」

 洋平が少し息を漏らす声は、あたしよりも色っぽい。
ようやく離された唇からは、どちらともとれない銀色の糸が引かれた。鼻先を付けたまま、洋平は低く笑って言った。

「ああ、そんな暇なかったか?」

 そう言われてやっと、あたしの耳に穴が開いているのに気づいた。


(ピアスホールには恋が住んでる)