「どうして、」
「どうしてもこうしても、ないですよ。君はもう必要ない。それだけの話だ」

そう告げると彼女は、泣きそうに顔を歪ませた。その表情も素敵だが、でもやはり僕は君の笑った顔が見たかった。

「君がいると、作戦に支障が出る」
「あたしだって戦えるよ!前よりずっと強くなったよ!」
「それでも、犬や千種にさえ及ばない」

何度も言いますが、君はもう要らない。足手まといだ。そう言うと、とうとう涙をこぼしてしまった。しかし、決して下を向いたりはせずに、僕をまっすぐに見つめる。その眼に僕は惹かれ、愛した。
 僕らがこれから進むのは、決して人に豪語できない道だ。血にまみれた棘の道を、素手で進むことになる。

「むくろ、お願いだからっ、」

  そんな道に、君を連れていく訳にはいかない。

「もう君を愛してない。」
「いや、元々、愛してなどいなかった。」
「こう言えば、満足ですか?」

 僕が最後に見た彼女の表情は、泣き顔だった。僕は彼女の笑った顔が好きだったのに。愛していたのに。こんな僕を愚かだと、人は笑うだろうか。だが、これが僕の出来る最良の決断だったのだ。穢れきった僕に、愛していると言ってくれた彼女を、僕と同じようにしたくない。穢したくない。僕は君に生きてほしかった。

 突き放された彼女は、あのあとどうしたのだろう。残された日々を、涙で溢れさせているのだろうか。それとも、誰か他の男を見つけて、愛しているのだろうか。至る所が痛む身体が、鬱陶しい。

「マフィアに捕まるくらいなら、死んだ方が、マシ、だ…」

そう言うと戸惑うボンゴレの目を見て、僕はもう一度彼女を思い出した。人を傷つけることを躊躇していた、あの彼女のことを。

 彼女が幸せになってもらえれば。そう思っていた。それなら僕も、それで満足だと。でも、こんな状況になって、やっと、手放したことを後悔した。大切な物を、自分で放っておきながら。
もし彼女が新しい男を見つけていたら、その男を僕はきっと殺すだろう。彼女が愛すのは、いつでも僕であってほしかった。

 僕がいつでも愛しているのは、だけだったから。


(落ちる鱗)