暖かい日差しが降り注ぐ中で、やはり教室の気温は外以上に暖かい。その中でこいつに起きていろというほうが無理なのだろう。

(…また寝てるし、このヒト)

寝てない授業のほうが少ないのではないかというぐらい、隣の席の流川楓はいつもいつも睡眠を取っている。

(確かに朝早くから部活行って、しかも夜まで頑張ってんだもんなあ)

 そりゃあ授業中起きてろと言う方が難しいのかもしれない。あたしでも確実に寝る。
それでもあたしは何の部活にも所属してないから、朝早く起きる事も夜遅くまで走っていることなどないわけで。あたしは寝ていい理由を何一つ持ち合わせていないから、仕方なく授業を受けている。
 だからと言って眠くないわけではない。暇でないわけでもない。
あたしは机に肘をついたまま、横で寝ている流川に黒板から視線を移した。腕を組んだ上に顔をのせて突っ伏している。しかし顔をあたしの方に向けているから、こちらからは寝顔が丸見えであり。長い睫毛とか、太陽の光に反射する黒い髪とかを、目にしないことは不可能なのだ。

(ほんと、本能に忠実な男だよあんたは)

 腹が減ったら食う。眠くなったら寝る。そんでもってバスケしたくなったら体育館に行く。そんな淡々とした生活を送っている流川。でも無表情の流川を見てあたしはいつも、楽しそうだなあと思うのだ。これを人に言うとあたしの頭が疑われそうなので黙っている。
 だって、自分の好きなことを、精一杯やれているのだ。これほど幸せで、楽しいことは、ないんじゃないだろうか。生憎あたしは、そんなもの少しだって持っていない。

「…何見てんだ」

 寝ていたと思っていた流川の目がいきなり開かれた。あたしはびっくりして、肩が上下に震えた。小さい声だったので、たぶん教師には聞こえていないのだろう。きっといつも寝ているこいつを、半ば諦めているはずだ。

「やあ、おはよう流川クン」
「…」

流川はあたしのおはようの挨拶を華麗にスルーして、身体を起き上がらすこともせずに突っ伏したまま、一つあくびをした(あ、かわいい)。

「今日部活は?」
「…ある…」
「ふーん。もう少しで終わるよ、授業」
「…何分」
「あと10分ぐらい」

 眠そうにあたしと会話をする流川がなんだか可愛らしい。いつものあのオーラが嘘のようだ。
流川は少し黙ったあとに、「起こせ」と言った。

「は?あんた既に起きてんじゃん」
「もっかい寝る。部活の時間になったら起こせ。」
「何であたしが」
「暇だろ、どうせ」
「…まあ確かに」

じゃあ起こせ、と言って流川はあたしにおかまいなくまた眼を瞑った。おいこらキツネ、と言ったら殺されそうなのであたしは黙っている。はあ、とため息をつくと、また流川の目がぱちっと開いた。(なんなんだお前は)

「毎日」
「ん?」
「毎日、起こせ。」
「…え?」
「で、部活終わるまで待ってろ。」
「なに、…は、え?」
「暇だろ、どうせ」

じゃ、と言ってまた眼を瞑る流川を、あたしはこれでもかってぐらい凝視した。しかしもうこいつの目は授業終了の鐘が鳴っても開くことはなく、あたしの眼はただ無駄に乾燥するだけとなった。

 というか、部活終わるまで待ってろって、どういう意味でとればいいんでしょうね、流川くん。




(惑わす音を掴む)