気を紛らわすように、辞書を取り、パラパラと紙を捲る。ただ捲る。
内容は、一応目にしているがあまり重要ではない。ただスクアーロは暇だった。
イタリア語の辞書、日本語の辞書をスクアーロは持っていたが、今回スクアーロはアメリカの辞書を手にしていた。
必要はほとんど無いが、次の任務でアメリカに行くことになっていた。
Dの欄で手が止まる。death.スクアーロはその英語を指でなぞった。
その下に羅列している説明文を読む。「death」声に出してみたが、部屋に響くだけで何ら変わりは無い。
眼球を動かすと下の方に引用方法が載っていた。
death from cancer. death edcation. He faced death with courage. fight against the fear of death.
イタリア語とスペルの使い方は似ているが、やはり読みにくい。
イタリア人なのだから仕方が無いが、それでもスクアーロは英語を使うことに慣れきっていた。
ゆっくりと視線を下げると一文が目に留まりスクアーロは凍りついた。
That injury hastened her death.
スクアーロは脳内でその一文を繰り返し繰り返し巡らせた。
他人から見ればなんてことない、ただの英文である。しかしスクアーロは身動きが取れなくなった。
心拍数が跳ね上がる。
息が詰まる。
スクアーロは辞書を放り投げ、白く整頓されたベッドに身を投じた。
ゆっくりと起き上がったスクアーロは頭を抱えた。どうすればよかったんだと安易なことを摸索した。
探したところで答えは見つかりはしない、見つかったとしてもそれはもう叶わぬ夢となった。
(That injury hastened her death./その怪我は彼女の死を早めた。)