任務を終えたばかりのベリアルに、ザンザスの事務室に行くようにとルッスーリアから伝言がきた。
少し寝かせてほしいと電話し嘆いたがうるせぇカスオレも暇じゃねぇんだと一蹴され、
ワイングラスを手に取ったザンザスの前で任務報告をすることになった。

「寝かしてくださいよボス…何時間働いたと思ってんすか」

まあ寄り道もできたからいいけど。大きな欠伸を右手で隠しながらそう呟いた。
ザンザスは今日少し機嫌が良いらしい。机の上に散ばっていた書類を勢いよく退かせるとデスクに組んだ足を乗せた。

「チャイニーズマフィアはどうだった?」
「別にどうってことなかったよ。ネチネチしつこく張り付いて来たけど」
「生存者は?」
「ゼロ」
「…そうか。よくやった」

ニヤリと笑って、こっちへ来いと合図する。
素直に寄ったベリアルの頭をゆっくり撫で下ろす。ベリアルも微笑んだ。

「ボス、お土産があるんだけど」
「なんだ?」
「早く任務終わっちゃってつまんないから日本に観光に行ったでしょ、そのときの」
「オレの口に合うか」
「それはわからないけど」

小さく笑ってベリアルは手にしていた紙袋から包装された箱を取り出した。
手渡すとザンザスは包装紙をまじまじと見つめて、これは?と問い掛ける。

「茶菓子っていってね、日本の伝統菓子みたいなもの。食べた事ある?」
「いや」
「気が向いたらどうぞ」
「ああ」

僅かに頷いてザンザスはデスクの手前のほうに茶菓子の箱をそっと置いた。
どうやら食べてくれるらしい其れをベリアルは、とてもおいしいから、と微笑んだ。

「意外。ボスは日本に詳しいかと思ってた」
「ジャパニーズマフィアとはあまり関わりが無いからな」
「仕事ないもんね。まあ助かってるけど」
「だろうな」

ザンザスは置いていたワイングラスを手に持って口につける。その動作は実に優雅で、とてもゆったりとしていた。
やはり今日は機嫌が良いらしい。運が悪いときは何も知らされずに唐突に仕事に行かされたり散々な目に合う。
スクアーロなんて更に酷い。(この間はワイングラスをぶつけられてワインなんだか血なんだかわかんないくらい銀髪が赤く染まっていた。)

「どうしてわざわざ日本に寄った?」
「暇だったし、久々に郷土料理が食べたくなって」
「理由はそれだけか」
「どうして?」
「ファミリーが恋しくなったじゃねぇのか?」

ザンザスの言うファミリーがヴァリアーの事を指しているなんて考える程、ベリアルは子供ではなかった。
ザンザスに背を向けて歩き出す。扉に手をかけてザンザスを振り返る。その顔は怒っているのか、それとも悲しんでいるのか、
どちらともとれない表情でザンザスを困らせた。

「ボス、あたしはもうあの国に未練は無い。なんなら殺してきてあげようか?」

日本人皆殺し。さぞ楽しいだろうねぇ?そう皮肉に笑って静かにドアを閉めた。
ザンザスは僅かに残っていたワインを飲み干し、静かに目を閉じた。



(静かな殺戮が広がっていく)