スクアーロは合鍵をコートのポケットにしまいながらリビングのドアノブを回すと、電気が付いていなかった。
ベリアルは何をしていたのかと不安に思いつつもすぐ横にある電気のスイッチをONにした。
明るくなった部屋でスクアーロは見慣れた冷蔵庫に手を出し、中からビールとベリアルが注文したコーラ、
ベリアルの食べかけのカマンベールチーズを抱えソファに座った。
テーブルに目をやると未開封の薬袋を見つけ、スクアーロはため息をついた。
あらかた、だるくて薬を飲む気になれなくてもシャワーだけは浴びとこうって魂胆だったんだろうなぁ。
ベリアルの生活習慣がわかってきたことにスクアーロは苦笑した。チーズの一切れを掴んで口に放り込む。
テレビを付けようと思ったがリモコンが見つからない。テレビは諦めて、スクアーロはビールとチーズを交互に口にする。味は関係なかった。
ベリアルは、スクアーロがヴァリアーに入隊してしばらく経った後に入った、謂わば後輩だった。
どんな経緯でヴァリアーに来たのかは、そのときあまり気にならなかった。
驚いたのは、暗殺部隊に女が存在する事実だった。
スクアーロは一度だけ、カマをかけて皮肉を言ったことがある。ベリアルは眉をひそめて苦笑しその場を去っていった。
その後ザンザスにベリアルの生い立ちを聞いたスクアーロは真っ先にベリアルに詫びを入れに言った。
それほど、自分自身の言動が彼は許せなかったのである。
後ろに淡い気配を感じて、済んだのか?と声をかけた。うん、と返事をするとベリアルが言った。
「コートくらい脱いでよ」
「ああ…忘れてた…ってう"お"ぉい、髪をちゃんとふけぇ!」
コートを脱いだスクアーロはベリアルをソファに横向きに座らせ、ベリアルの肩にかかっていたタオルで乱暴に髪を拭いた。
べリアルは微笑してスクアーロに擦り寄る。スクアーロは黙ってベリアルの髪の水気を散す。覗くうなじは見慣れたものだった。
「すぐふかねぇから、Tシャツ濡れてるぞぉ」
「すぐ乾くし」
「風邪ひくだろぉ」
「看病してね」
「たりめぇだぁ」
手串で髪を整えるベリアルをいとしくも哀れに思いスクアーロは泣きそうになった。
「ベリアルは純血の日本人だ」
スラム街に捨てられた、必然的な殺し屋だ。ザンザスはそう付け加えた。
女の癖に、と嘲笑った自分を呪い殺したい。ベリアルはベルのように殺したいから殺すのではなく、仕方なくだった。
殺さなければ成らなかった。自分のことも、もちろん当然のように。
(仕様がなかったと嘆くにはもう遅い)