02 「へえ、ここがそうなんだ?」 隣の黒服がそうです、と頷く。目の前には、鉄でできた重そうな扉。表面には彫刻がしてあって、いかにも牢獄という感じが醸し出されている。 今までにも沢山の囚人が捕らわれているのを見てきたからそこまで圧倒されることはなかった。けれど、身体が疼く。ただ、興味があるのだ。中に捕らわれているであろう少女に。 自然と口元が上がる。ミラノファミリーの幹部だという男が扉に近づいて、鍵を開けた。ギィ、と重くのしかかる音を立てて僅かに隙間を見せた。 「どうぞ」 オレはニヤけながら(自分で自覚はしている)足を踏み出す。中に窓はなくて明かりが入るのはオレが入って来た扉からだけだった。 うわーさむ!おまけに暗いなんて、オレが入ったら半日と持たねーと思うよ! キョロキョロと中を観察していると、人の足のようなものが見えた。…死体か?カツカツとブーツで音を立てながら近づいていく。するとピクッと足が動いた。 何だ、死体じゃなかった。僅かに動いた足に近づく。だんだんと目が慣れて、その正体が明らかになった。 壁に寄りかかるようにして、足を延ばしてうなだれている少女。少女がわずかに目線を上げて、オレを眼に留めた。 「…だれ?あたしを殺すの?」 「いや?」 「いやだ」 「ふーん、良かったじゃん。生憎オレはお前の執行人じゃない。お前、・っていうんだろ?」 「…あたしの名前だね」 少女の声にオレは驚いた。15歳の割には随分と冷めた声をしていたからだ。監禁されてたんだから、当然といえば、当然だけど。 壁に穴をあけたところに鎖を通して、それを腕に繋がれている。ゆるいばんざいをしたような状態で、は居た。このとき僅かに生まれたこの、怒りとも哀しみともとれる感情を、どうすればいいのか戸惑った。 「こっから出たい?」 「?」 「この地獄みたいな場所から出たいか、って聞いてんの」 するとは、背筋が凍るような笑いを見せて言った。 「もちろん」 まただ。自分の口元が持ち上がるのがわかった。 「ああ、ボス?オレだけど!任務に無かったファミリー殺っちゃった!」 あぁ?どこだ 「ミラノファミリー?ってとこ。面白い奴を監禁しててさ、連れてこうとしたらなんかキレられて。ムカついたから殺した」 ふん、ミラノファミリー、な。処理しといてやる 「Grazie!で、その面白いやつ、スカウトしたんだけど。今から連れてくから見てよ」 気に入らなかったら殺すぞ 「オレを?こいつを?」 両方だ。 プツッと電話が切れた。あ、やばいオレも殺される。苦笑いしていると付き人が声を掛けてきた。 「どうでした?」 「ま、大丈夫だろ。気に入ると思うし、こいつのこと」 オレの隣でキョロキョロしてるの頭を掴んで、こっちを向かせる。するとは楽しそうに目を輝かせていて、やっぱり子供だと思った。さっきの冷たい声や、凍るような顔はどこへ行ったのだろうと疑問に思ったが、まだ こいつのことをあんまりわかってない以上、下手に聞くとまずいと思い放っといた。 「あたし、外に出たんだね!」 「ああ、そうだよ。で、お前今から連れてくけど」 「ああ、ヴァリアー、でしょ。さっき教えてくれた」 「そうそう。ボスに見てもらうけど、まあ普通にしてて」 「わかった!」 「…と、まずその服と髪をどうにかしねーと!オレそんな格好の奴と一緒に歩きたくねー」 「しょうがないじゃん、好きでこんな恰好してるわけじゃないもん」 は文句をつけるとぶすっと顔を歪ませた。白い布だった筈のワンピースのような簡単な服は風化して黄ばんでいて、髪は半年も監禁されてたからか、伸び切っていて傷んでいる。 元々はもっと綺麗な髪だったんだろう。ずっと髪を手櫛で解かしているところを見ると想像できた。(だって顔立ちはとても整っているから!) 「服買ってこようぜ。オレが選んでやるよ」 「本当!?あ、でも、お金」 「いいって、オレ王子だし!後で領収書だしてボスからもらうから」 「王子…ああ、さっきも言ってたね!すごいなあ。髪の毛もすごく綺麗な金色してるね」 「とーぜん!だってオレ王子だもん」 「あはは!口癖みたいだね、それ。…それで、髪の毛はどうすればいいのかな?」 「屋敷に行ってソッコーでルッスーリアに切ってもらうよ。うまいから、あいつ」 「ル、ッスーリア?さん?その人もヴァリアーなの?」 「そうだけど。お前オカマは平気?」 「え?大丈夫だけど。ゲイもレズもその辺は平気」 「へえ、協調性あんじゃん。まあそれなら大丈夫だな、仲良くなれるんじゃね?」 バタン、と車に乗り込みながらの会話。こいつは本当に、普通の子供みたいだ。18人も殺したとは思えないほどよく笑う。 其れの方が逆にオレにとっては好都合。すごく面白い、こいつ。ニヤけてしまうのはオレの中の精神が歪んでいるからなのか? 違う、とも言えるしその通りだとも言える。(だってオレはこいつが気に入ってしまってたまらないのだから!) 「じゃあとりあえず、ローマ行って。服買うから」 「かしこまりました」 「ローマ!?ローマまで行くの?あたしミラノでいいよ?」 「ばーか。ファミリー潰したばっかりで同じ街で買い物できっかよ」 「あぁ、そっか」 ごめん、と笑うは嬉しそうだった。 → |